ライター:一色先生
2026.08.28
こんにちは、一色です。
「PoC(概念実証)」という言葉を聞く機会が増えました。
新しいアイデアをいきなり導入するのではなく、まずは小さく試してみることです。
実はこの考え方、オフィスづくりとも非常に相性が良いのです。
「ハイテーブルを置いたら会話が増える?」
「オフィスの一角を社外に開いたら新しい出会いが生まれる?」
最初から正解を決めず、実際に試して反応を見る「試す場」としてのオフィスが増えています。
今回は豊洲の「LIFESTYLE LAB TOYONOMA」などの事例から、これからのオフィスづくりを考えていきます。

1.オフィスや街そのものを「試す場」にする
事例① LIFESTYLE LAB TOYONOMA
「働く・暮らす・遊ぶ」が交わる、これからのライフスタイルの実験場
※画像引用元:https://toyonoma.com/concept/

2025年9月、豊洲セイルパークに開業した「LIFESTYLE LAB TOYONOMA」。
ここは、単なるコワーキングスペースではありません。これからのライフスタイルを生み出すための「参加型実証施設」というユニークな位置づけを持っています。
特徴的なのは、仕事をする場所だけでなく、本格的な厨房を備えたテストキッチンや、製品などを展示できる「LIFESTYLE GALLERY」などが用意されていること。
※画像引用元:https://toyonoma.com/

企業やスタートアップが新しい商品やサービスを持ち込み、豊洲で働く人や地域の住民に実際に体験してもらう。
つまり、
「新しいものをつくる人」
↓
「実際に使う人」
↓
「その反応を見ながら改善する」
という循環が、日常の中につくられています。
さらに、隣接するシェア企業寮「TAMESU」と連携することで、「住みながら試す」という中長期的な実証も可能になります。
※画像引用元:https://tamesu.co.jp/

ここで興味深いのは、実験のために特別な研究施設をつくるのではなく、人々が普段から過ごしている場所そのものを実験の場にしていることです。
これはオフィスにも応用できそうです。
例えば、社員が普段使っているラウンジに新しい家具を置いてみる。
仕事の仕方を少し変えてみる。
社外の人が参加できるイベントを開いてみる。
そこで起きることを観察してみる。
「完成した空間を使ってもらう」のではなく、「使ってもらいながら空間を育てていく」という発想です。
事例② Marunouchi Street Park
道路を「働く場所」「過ごす場所」に変えてみる
※画像引用元:https://tokyo-omy.jp/press-release/press-release-2224/

もう一つ興味深いのが、東京・丸の内仲通りで展開されている「Marunouchi Street Park」です。
普段は道路として使われている場所に芝生やベンチ、テーブルなどを設置し、働いたり、休憩したり、人と話したりできる空間へと変えていきます。
※画像引用元:https://ligare.jp/project/msp/

ここで行われているのは、単なるイベントではありません。
「道路を人中心の空間に変えたら、人の過ごし方はどう変わるのか?」
「屋外で働く場所があったら、オフィスワーカーはどのように使うのか?」
「昼間だけでなく、夜にも人が集まる場所をつくったら、街にはどんな変化が起きるのか?」
そんな問いを、実際の街を使って試しているわけです。考えてみれば、私たちの「働く場所」は、必ずしもオフィスビルの中だけである必要はありません。
オフィスのラウンジ、ビルの共用部、屋上、テラス、近隣のカフェ、街の広場……。
これからは、「どこをオフィスにするか」ではなく、「どこまでを働く環境として捉えるか」という視点も重要になってきそうです。
事例③自社オフィスを「実験場」にする
そして、もっと身近な実験場ーーそれは、自分たちのオフィスです。
新しいオフィスをつくるとき、すべてを最初から完璧に決めるのではなく、実際に社員が使いながら、働き方や空間のあり方を検証していく「実験型オフィス」という考え方があります。
例えば、
•どのくらいフリーアドレスが使われるのか
•どんな場所で会話が生まれるのか
•集中したいときにはどんな環境が求められるのか
•会議室は本当に今の数が必要なのか
•新しいデジタルツールは仕事を楽にしてくれるのか
•AIやIoTを使うことで、どんな働き方が可能になるのか
といったことを、実際の業務の中で試してみます。
ここでは、「最初に正解を決める」ことよりも【試す → 使う → 気づく → カイゼンする】
というサイクルを回すことが重要になります。
オフィスは、一度つくったら何年間も変えない「完成品」ではなく、働き方の変化に合わせてアップデートしていくものになってきているのです。
2.「試す場」に共通する3つの特徴
こうした事例を見ていると、場所や規模は違っても、いくつか共通するポイントが見えてきます。
① 最初から「完成」を目指していない
従来のオフィスづくりは、人員や機能を事前に精査し「失敗しない完成形」を目指すのが主流でした。しかし、働き方が激変する現代において、すべてを正確に予測することは不可能です。
だからこそ重要なのが「小さく試す」アプローチです。
・家具: 一角だけ試導入する
・新運用: 1部署のみで先行テストする
・サービス: 期間限定で使ってみる
一斉導入を避けスモールスタートに切り替えることで、リスクを最小限に抑えながら組織に合う形を模索できます。
② 実際に使う人が、実験の中心にいる
もう一つのポイントは、「使う人」が最初から関わっていることです。例えば、オフィスの新しいラウンジを企画するとき。
設計者や管理者だけで「ここならきっと会話が増えるだろう」と考えるのではなく、実際にそこで働く人に使ってもらう。
そして、
「思ったより使わなかった」
「この椅子は意外と人気だった」
「ここでは仕事の話より雑談が多かった」
「一人で集中するには少し騒がしい」
といったリアルな反応を集める。こうした小さな気づきが、次のカイゼンにつながります。
つまり、オフィスをつくる人と、オフィスを使う人を分けすぎないことが大切です。
「会社が用意したオフィスを社員が使う」のではなく、「働く人も一緒になってオフィスを育てていく」
という考え方です。
③ 効率だけではなく、「そこで働く体験」を考えている
もう一つ重要なのが、「効率化」だけを目的にしていないことです。
もちろん、
「席を効率的に使う」
「会議室の稼働率を上げる」
「コストを下げる」
といった視点は重要です。しかし、それだけでは、これからのオフィスの価値を十分に捉えられません。
その場所に行くと、ちょっと気分が変わる。
偶然、誰かと会話が生まれる。
新しいアイデアを思いつく。
集中して仕事ができる。
会社に来ることが少し楽しみになる。
そんな「働く体験」そのものをどう良くするかも、オフィスの大切な役割になっています。
「TOYONOMA」や街を活用した実証事例がユニークなのも、単に「便利な場所」をつくろうとしているのではなく、そこで人がどう過ごし、どう交流し、どんな新しい価値が生まれるのかを考えているからでしょう。
3.私たちのオフィスでも「小さな実験」を始めてみる
「TOYONOMA」のような施設は面白いけれど、自社で同じことをするのは難しい」
そう思われるかもしれません。
でも、PoC(概念実証)の本質は、大規模な施設をつくることではありません。「まず試してみること」です。
例えば、こんなことから始められます。
● オフィスの一角を1カ月だけ変えてみる
空いているスペースを使って、
「集中ゾーン」
「雑談ゾーン」
「立って仕事をする場所」
「一人でリフレッシュする場所」
1カ月後に感想を聞いてみましょう。それだけでも立派な実験になります。
● 新しい家具を「試座・試用」してみる
いきなり全員分を購入するのではなく、数種類の椅子やデスクを置いて、実際に社員に使ってもらう。
「どれが人気か」だけではなく、「どんな仕事のときに使われるか」まで観察すると、意外な発見があるかもしれません。
● 「ルール」を期間限定で変えてみる
「このエリアではオンライン会議OK」
「この場所では雑談OK」
「毎週金曜日は自由席」
など、これまでのルールを少しだけ変えてみて、社員の行動がどう変わるのかを見てみましょう。
● 3秒アンケートを置いてみる
大規模なアンケートを年に1回実施するだけでなく、新しい取り組みの横にQRコードを置いて、
「使いやすい?」
「また使いたい?」
「なくてもいい?」
など、気軽に答えてもらう。大切なのは、完璧な調査をすることではなく、小さな反応を拾い続けることです。
4.これからのオフィスは「完成品」ではなく「プロトタイプ」
オフィスづくりではコストや変更の難しさから「失敗しないこと」が重視され、計画段階で正解を求めがちです。しかし、働き方が変わり続ける現代では、「正解を当てる」こと以上に「変化に対応できる状態にしておく」ことのほうが重要かもしれません。
例えば、
「この家具が本当に必要なのか?」
「この会議室の数でいいのか?」
「このスペースはもっと別の使い方ができないか?」
と思考を加えながら少しずつ変えていく。オフィスは「完成させるもの」ではなく、働き方を試すためのプロトタイプとも言えます。そして、その実験の主役は、オフィスをつくる専門家だけではありません。そこにいる社員一人ひとりが、実験者です。
「ちょっと変えてみたら、どうなるだろう?」
そんな小さな問いから、オフィスは変わり始めます。
まとめ 「試してみる文化」が、オフィスを変えていく
「TOYONOMA」のように、街の人やワーカーを巻き込みながら新しいライフスタイルを試す場所。
「Marunouchi Street Park」のように、これまでとは違う都市空間の使い方を試す場所。
そして、自社のオフィスを使いながら、新しい働き方を試していく場所。
共通しているのは、「最初から正解をつくろうとしない」ことです。
まず試す。
使ってみる。
話を聞く。
気づく。
そして、また変える。
このサイクルを回していくことは、なにも大がかりなイノベーションだけの話ではありません。
「この椅子を置いてみよう」
「この場所を使ってみよう」
「このルールを1カ月だけ変えてみよう」
そんな小さな実験も、立派なPoCです。
そして、こうした小さな実験が積み重なっていくと、オフィスには少しずつ「やってみよう」「変えてみよう」という文化が生まれていきます。
これからのオフィスに必要なのは、すべてを完璧に設計することではなく、変化を受け入れ、試しながら育てていける仕組みなのかもしれません。
オフィスに関わる私たち一人ひとりが、「使う人」であると同時に「つくる人」になる。
そんな視点で自分たちのオフィスを眺めてみると、今まで気づかなかった「試してみたいこと」が見えてくるのではないでしょうか。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
一色先生
ライタープロフィール
コクヨに42年間オフィスデザイナーとして勤務。オフィスデザインだけでなくオフィス研究やオフィス運営維持活動も担当。オフィスやカイゼンに関する講演は全国で50回以上実施している。2019年にはデザインスタジオを開業。オフィスのコンセプトづくりやコンペ提案のアドバイスを対応。
水彩画家として個展やカルチャースクールの絵画講師、公募展への応募なども行っている。2020年には初出品した水彩画が日展入選。はやくスケッチ旅行を再開したい。
一色先生
ライタープロフィール
コクヨに42年間オフィスデザイナーとして勤務。オフィスデザインだけでなくオフィス研究やオフィス運営維持活動も担当。オフィスやカイゼンに関する講演は全国で50回以上実施している。2019年にはデザインスタジオを開業。オフィスのコンセプトづくりやコンペ提案のアドバイスを対応。 水彩画家として個展やカルチャースクールの絵画講師、公募展への応募なども行っている。2020年には初出品した水彩画が日展入選。はやくスケッチ旅行を再開したい。
オフィスの日常運営におけるニーズやオフィスの構築・移転・改修に関するご相談、お問い合わせに、経験豊富なスタッフがお答えいたします。お問い合わせ・資料請求はお気軽にどうぞ。