ライター:一色先生
2026.07.28
こんにちは、一色です。
ICTやAIが急速に進化し、頭の中にあるイメージを瞬時にテキストや画像として出力できる時代になりました。しかし、だからこそ「自分の手と頭を使って、イメージを平面に形作るプロセス」の価値が、これまで以上に高まっていると思われます。
なぜなら、そのプロセス自体が、人間の脳に「新しい気づき」や「想定外のひらめき」をもたらす最強の思考ツールといえるからです。

1. なぜ今、イメージを「形にする」ことが重要なのか
現代は、AIにキーワードを打ち込めば、それなりの企画書や美しい画像があっという間に完成する時代です。しかし、効率化が進む一方で、私たちは「自分でじっくり考える」というプロセスを省略しがちになっています。
見たものや頭に浮かんだイメージを、あえて自分の手で平面(紙やホワイトボード)に描き出してみる。この行為には、単なる出力(アウトプット)超えた「思考の深化」という大きな意味があります。
脳の隠れたリソースを引き出す
人間の頭の中にあるイメージは、非常に曖昧です。「分かったつもり」になっていても、いざ紙に描こうとするとはじめて、分かっていないことに気づきます。
この「描けない」という気づきこそが重要です。手を動かして視覚化することで、脳は強制的に客観的なフィードバックを受け取ります。その結果、自分でも思いつかなかった新しいアイデア(ひらめき)や、論理の穴(課題)に気づくことができます。
頭の中だけで考えているときや、AIに依存しているときには絶対に得られない、人間ならではのクリエイティブな体験と言えます。
2.絵を描く基本:全体から部分、そして俯瞰へ
絵を描くときは、細かいところから描かない。例えば、目の前にマグカップがあるとします。
描き慣れていない人ほど、持ち手や模様など気になるところから描き始めがちです。
ですが、描き慣れている人はまず全体を見ます。
「紙のどの位置に置こうか」
「高さと幅はどれくらいに設定するか」
「背景はどこまで入れようか」
こんなことを観察してから、ペンを動かします。
絵を描くときに本当に大事なのは、下記のステップを繰り返すことです。
①まず全体を見つめ、構図を考える(手を動かす前に考える)
いきなり細部を描き始めない。まずは対象をじっくり観察し、四角いキャンバス(紙面)のどこに、どれぐらいの大きさで配置するべきか、頭の中でシミュレーションします。「余白はどれくらい必要か」「全体の重心はどこにあるか」を捉えます。
②全体のアタリ(骨組み)を取る
配置が決まったら、最初は、細部は無視して、大きな塊として全体のシルエットを描き出します。これが「全体を見る」というステップです。(図と地の考え方の地の部分を描くことも有効です)
➂部分(ディテール)に入り、また全体を俯瞰する
全体のバランス(骨組み)が正しいと確信できて初めて、形や陰影などの「部分」を描き込みます。そして、少し描き込んだら、必ず鉛筆/ペンを止めてキャンバスから目を離し、「全体としておかしくないか」を俯瞰(チェック)します。
「全体」を見て、「部分」を描いて、また「全体」を確かめる。この「マクロとミクロの高速往復」こそが、見たものを正しく平面に描き出すための唯一無二のアプローチです。
▼カフェスケッチ/一色俊秀

3.このプロセスは仕事の進め方と同じ
この「絵を描くステップ」は、ビジネスにおけるプロジェクトの遂行や、日々のタスクマネジメントのやり方と、重なり合います。以下の4つの共通点をまとめています。

それぞれのステップを、仕事の文脈に落とし込んで説明します。
共通点①:手を動かす前に「キャンバスの全体」を定義する
デッサンで「画面のどこに配置するか」を決めるように、仕事では「このプロジェクトのゴールは何か」「制約条件(予算・期間・リソース)は何か」を最初に定義します。
仕事がうまくいかない人は、往々にして「いきなりExcelの資料を作り始める」「いきなりプログラムを書き始める」といった、部分的な作業からスタートしているのではないでしょうか。
これは、画面の端から部分だけに注力して描き始めるのと同じです。後になって「目的とズレていた」「リソースが足りなくなった」という致命的な失敗につながります。まずは手を止め、仕事の「全体像」を捉えることが先決です。
共通点②:「アタリ」を取ることで、手戻りを最小限にする
絵を描き慣れている人は、最初は消しゴムで簡単に消せるような薄い線で、大まかな形(アタリ)を取ります。間違っていたら、すぐに修正できます。
仕事における「アタリ」とは、「仮説検証」や「プロトタイプ(試作品)の作成」「骨子案の作成」にあたります。企画書を作るなら、いきなり美しいスライドを作り込むのではなく、まずは箇条書きで「全体の流れ(ストーリー構成)」だけを作って上司やチームメンバーに見せる。
これが仕事の「アタリ」です。
この段階であれば、方向性の修正は容易であり、時間と労力の無駄(手戻り)を最小限に抑えることができます。
<アタリを取る>

共通点③:「部分」に熱中しながらも、溺れない
仕事が本格化すると、日々の具体的なタスク(部分)に追われるようになります。データの分析、資料のデザイン、顧客との交渉など、ディテールへのこだわりは成果物の質を高めるために不可欠です。
しかし、絵で一部分だけを執拗に描き込むと全体のバランスが崩れるように、仕事でも「資料の見た目ばかりにこだわって、肝心の提案内容が薄くなる」といった本末転倒な事態が起こります。部分に熱中しつつも、自分の意識のどこかで「これは全体のどことつながっている作業なのか」を意識し続ける必要があります。
<全体を意識しつつ、部分を描き進める>

共通点④:「俯瞰(レビュー)」がひらめきと軌道修正を生む
絵を描くとき、数分おきに席を立ってキャンバスを遠くから眺めるプロセスは、仕事における「マクロな視点での進捗管理・振り返り」そのものです。
「今、プロジェクト全体のどの位置にいるか?」「顧客の本当のニーズからズレていないか?」を定期的にチェックします。
また、この一歩引いた「俯瞰の瞬間」にこそ、現場で必死に作業(部分)しているときには見えなかった「別の効率的なアプローチ」や「新しいビジネスの種(ひらめき)」がパッと頭に浮かびます。
<全体を俯瞰して、部分を修正する>
▼「インターコンチネンタルホテル夕景」 一色俊秀

4. ICT・AI時代に「絵を描くような思考」が必要な理由
今、私たちは「答え」を出すこと自体はAIに任せられる時代に生きています。
しかし、「どのキャンバスに、どんな絵を描きたいか(=どんな価値を生み出したいか)」という全体の意志とグランドデザインを決めるのは、どこまでいっても人間です。
部分的な作業(データの集計や定型文の作成など)はAIが最も得意とする分野です。だからこそ、これからの人間に求められるのは、以下の2つの能力です。
1.全体をデザインする力(構図を決める力)
2.部分の違和感に気づき、全体をチューニングする力(俯瞰する力)
「部分を見て、また全体を俯瞰する。このやりとりを繰り返す」という絵を描くアプローチは、AIの活用が増えてくるこれからの知的な仕事の上でも、不可欠になるのではないでしょうか。
▼コンセプトイメージスケッチ/一色俊秀

5. 絵を描くように仕事を進めるやりかた
•ホワイトボードに「簡単な図解」を描く
言葉だけで打ち合わせをするのではなく、関係性や課題の構造を「丸」と「矢印」だけでいいので平面に描き出します。頭の中のイメージが可視化され、チーム全体で「全体と部分」を共有できるようになります。
• 作業を始める前に「まず観察タイム」を作る
すぐにパソコンを開くのではなく、ノートを開いて、「この仕事のゴールは何か」「誰に届けるものか」「大まかなステップ(アタリ)はどうなるか」を文字や図でマッピングしてから、実際の作業(部分)に入ります。
•「俯瞰する時間」をスケジュールに組み込む
週の終わりや、1日の終わりに「一歩引いて眺める時間(リフレクション)」を数分だけでも確保することをお勧めします。作業の手を止めて、今やっていることが全体のロードマップに対して正しいかをチェックします。
まとめ:平面に描くことは、全体と部分をコントロールすること
絵を描くという行為は、決して一部の芸術家やイラストレーターだけの特権ではありません。それは、「複雑な現実や曖昧なイメージを、平面という扱いやすいサイズに落とし込み、全体と部分をコントロールするための知的な技術」といえます。
見たものを平面に描けるようになるプロセス(全体→部分→俯瞰の往復)を身につけることは、「仕事に対するものの見方を柔軟にする」ことに他なりません。
あなたの「手」と「目」と「脳」を往復させて生み出されるひらめきは、決して色褪せることはありません。
ぜひ、今の仕事の「全体像」をビジュアル化することから始めてみませんか。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
一色先生
ライタープロフィール
コクヨに42年間オフィスデザイナーとして勤務。オフィスデザインだけでなくオフィス研究やオフィス運営維持活動も担当。オフィスやカイゼンに関する講演は全国で50回以上実施している。2019年にはデザインスタジオを開業。オフィスのコンセプトづくりやコンペ提案のアドバイスを対応。
水彩画家として個展やカルチャースクールの絵画講師、公募展への応募なども行っている。2020年には初出品した水彩画が日展入選。はやくスケッチ旅行を再開したい。
一色先生
ライタープロフィール
コクヨに42年間オフィスデザイナーとして勤務。オフィスデザインだけでなくオフィス研究やオフィス運営維持活動も担当。オフィスやカイゼンに関する講演は全国で50回以上実施している。2019年にはデザインスタジオを開業。オフィスのコンセプトづくりやコンペ提案のアドバイスを対応。 水彩画家として個展やカルチャースクールの絵画講師、公募展への応募なども行っている。2020年には初出品した水彩画が日展入選。はやくスケッチ旅行を再開したい。
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