ライター:セッキ―
2026.02.12
京都府福知山市。とある丘の上に建つ小学校から、子供たちの声の代わりに、甘く香ばしい香りが漂ってきます。
2020年3月に閉校となった福知山市立佐賀小学校。今、この場所はただの「跡地」ではありません。京都発祥のとある洋菓子メーカーの新たな心臓部なのです。
かつて、製造と販売の拠点が離れ、社員たちの間に見えない距離があったという同社。彼らが選んだのは、効率的な最新鋭の工場ではなく、手作りの温もりが残る廃校の利活用!
「里山ファクトリー」で離れていた心が一つに—―
社員の働き方や心理状態を変えただけでなく、地域に愛される“半公共”ともいえるスペースに生まれ変わったかつての小学校をご紹介します。

◆足立音衛門ってどんな会社?
栗のテリーヌ、贅沢和三盆パウンドケーキ、 大人だけの半熟贅沢プリン・・・ん~聞いてるだけでよだれが垂れそうですね。
和洋菓子の製造・販売を手がける株式会社足立音衛門(あだちおとえもん)。京都に本店を構え、全国各地のデパートやインターネットでも販売されています。
2005年、アパートの一室から始まった同社ですが、当時20人程度の従業員が毎日顔を合わせもくもくとお菓子を作り続け、少しずつ規模を拡大していきました。和三盆糖や京都丹波産の栗を使ったケーキをはじめ多様な洋菓子を開発。今では常時80種類にもおよぶラインアップを展開しているんです。日本にとどまらず世界各地の栗をその目で見て触って素材を確認しお菓子に活かしているとのこと。
▼同社の看板商品_栗のテリーヌ「天」

一つひとつ手作りの風合いを大切にしたお菓子がウリの同社ですが、栗の季節や年末ともなると人手が足りず生産が追いつかないほど。そこには通常の企業のオフィスにはない特有の構造の課題がありました。
◆離れた製造と販売をひとつに
これまで同社では、製造と販売の場所が車で十数分と離れていたため、ちょっと打ち合わせをするにも時間もコストもかかっていました。
朝出社すると、終わるまで窓のない厨房で働くということは、お客様と接することもなく、季節を感じることもなく、また社員同士が触れ合うこともありませんでした。
販売とひとくちに言っても、梱包スペースや発送作業、在庫置き場も必要になります。従業員のための休憩室や更衣室、食堂なども本来はあったほうが健康的と言えるでしょう。
しかしそれらすべてを構築するにはそれなりに大きな場所への移転を考えなくてはなりません。そこへ2019年、ちょうど市から小学校の廃校利用の話が持ち上がりました。

◆小学校を生まれ変わらせる
小学校なら、教室がいくつもあって、駐車場スペースになりそうな敷地も広い。これは渡りに船、とばかりにまだ授業が行われている学校へと、見学にも行ったそう。
といっても小学校は翌年3月まで続きます。申請後は地域住民のみなさんに、どんな会社なのか、どのように使いたいと考えているのか、丁寧に説明会を行ったのです。
お菓子作りに向き合う姿勢、できたてのお菓子をいただけるショップとカフェを併設予定であること、閉鎖的な空間ではなく、中庭もグラウンドも公園のように自由に使ってほしいこと……
少しずつ住民の理解を積み上げていきました。
やがて卒業式を迎え、惜しまれつつも閉校となります。そこから一年間、市との調整や議会の決議を経て、翌年の3月末に正式に市から許可が下り、晴れて同社は「廃校となった小学校を買い取った市内で初めての企業」となったのでした。
4月から工事が始まり、5カ月間の突貫工事に地元の多くの工事業者の力を結集し、2021年10月「里山ファクトリー」は完成しました。栗の季節の真っ只中、10月に無事オープンできたのですね♪
企業が利用するには、まず用途変更の手続きが必要となり、排水関連の整備も必要。ほかにも消防車が敷地内を通れるように道路を作ったり、窓ガラスを防火ガラスに変更したり。古い法律制度の考え方に沿った改修に悩まされながら様々な困難を乗り越えてきました。
地面の掘削中に土器のかけらが出てきた!なんてこともあり、市の調査が入って工事が中断、オープンが遅れそうでヤキモキ。そんなエピソードもここならではですね。

・理科室→厨房に
・多目的教室→和菓子工房に
・体育館→いくつもの小部屋を作り、梱包や発送の作業スペースに
・プールがあった場所→駐車場に
自分が小学生だったころを思い出すと、あそこがこうなったのかーと楽しみながらいつまででも過ごせそうです!
◆遠くなっても…働き方にもたらした変化
同社の従業員120名のうち、60名が里山ファクトリーに所属しており、毎日の出社は30~40名ほどとのこと。
山と農村に囲まれた里山ファクトリー、実は通いやすさでいうと若干ダウンしているというのですが、それでも、社員同士の会話が増え、交流から新たなアイディアが生まれる。広い敷地内でリフレッシュできることや、お客様の声や自然とのふれあいができることなど、これまでになかった働く空間としての変化を存分に味わっているのでした。
▼園芸部のみなさん

教室だった部屋の窓からお菓子作りのすべての工程が見られるため、たくさんの小学生が工場の見学に来たり、採用の面でも良き変化が起きています。
▼1階はすべて自由に立ち入りOK。ショップ&カフェの前にはウッドデッキが作られ、テラスの利用も

▼地元小学生の社会見学の様子

◆なぜ足立音衛門は地域から愛されるのか
里山ファクトリーの敷地内では、毎週朝市が開かれていたり、休日のグラウンドでは親子連れがキャッチボールをしていたりと、開放的で地域に愛される企業として受け入れられています。廃校として閉ざされた敷地になるのではなく、まるで大きな公園のようですね。
中庭では青空のもと、高校生が演奏会を開催したり年に何度か、地元のお祭りの会場としても利用されているといいます。また、雪が多く降ったときは、地域住民が雪かきを手伝ってくれるほどの愛されぶり。

周辺住民は旧佐賀小学校出身の方々がほとんど。そんな地に根付いた場所を活用されるとなれば、どんな企業が入るのか、どんなふうに変わるのか、自分たちも関われる場所になるのか……など、気になる点ばかりですよね。
なぜこんなにも地域に根差した場所となったのか、お話を伺いました。
土田和典さん
株式会社足立音衛門 営業部長
「自分たちがどんな企業なのか、どんなふうに使っていきたいのかを丁寧に説明しました。
有事の際の対応ができるようになっていたほうが好ましいという想いもあり、私も地元消防団の仲間に入れていただきました。また避難所的な使い方をしてもらえるよう日ごろから自治会長さんとも話し合っています。
グラウンドは周辺にはここしかないため、楽しんで利用していただけるのは嬉しいですし、イベントも様々なもので盛り上がってくださっています。特に毎年春に開催しているたけのこ掘りは印象深いですね。“法恩寺のたけのこ”は地元ではちょっと有名で、もう4回ほど開催していますが、毎年100人単位で来場者が増えているんです。敷地内でスタンプラリーをやって、全部集めたらお菓子をもらえる、など企画する側も楽しんでいます。
ただイベントに関しては『音衛門はなにをしてくれるの?』というスタンスではなく、『こういうイベントをやるので、よかったら音衛門さんも参加しませんか』というスタンスで企画していただくよう、地元の方々にはお願いしています。逆もしかりで、お互いに依存せず、気持ちよく協力体制を組めること、それだけは守って運営しています」
▼昔の卒業制作や石碑などすべて残されている

「(2025年10月で)4年経過し、やっと慣れてきたところです。根底にあるのは、単なるビジネスとしてでなく、社員が楽しく働ける場所であり、地域も楽しんで潤うように、という想いです。
例えば、京都のお土産や地元の農家で採れた野菜が買えるなど、道の駅みたいになったら面白いかな、とか社員からももっといろんなことをやっていきたいという声が多いので、今後を楽しみにしていただければと思います!」
▼地元高校生によるブラスバンド部の演奏会は年2回行われている

▼こちらも年2回開催される地元高校生による和太鼓部の演奏会

◆まとめ:廃校が教えてくれた、「場」の力と共生のヒント
「製造と販売の壁を取り払いたい」という課題から始まった、足立音衛門の廃校リノベーション。取材を通じて見えてきたのは、単なる場所の移動以上の価値でした。
無機質なオフィスではなく、誰もが懐かしさを感じる「学校」に集うことで、社員の心理的な壁までもが自然と解消。廊下ですれ違い、同じ空気を吸う環境が、部署を超えたコミュニケーションと新しいアイディアの源泉となっていました。
そして、地域に愛され続けるコツは、「企業が一方的に何かをしてあげる」のではなく、「お互いに依存せず、一緒に楽しむ」という対等なスタンスにありました。 人口減少により廃校が増える日本において、地域資源を有効活用し、働く人の笑顔と地域の賑わいの両方を生み出す「里山ファクトリー」は、これからの社会における希望のモデルケースと言えるでしょう。
| Information | 株式会社足立音衛門 https://www.otoemon.com/
里山ファクトリー 里山ファクトリー公式ページ 〒620-0003 京都府福知山市私市上リ立1(旧福知山市立佐賀小学校) TEL:0773-21-9030 京都(福知山)福知山本店 〒620-0035京都府福知山市内記44-18 ・営業時間 10:00~18:00 ・フリーダイヤル 0120-535-411 公式オンラインショップ |
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セッキ―
ライタープロフィール
2014年入社、当社で初めてライターに挑戦。キャリアのスタートは銀行員、その後リクルートグループ、大手税理士法人、スポーツアパレルなど複数の事業会社で管理部門、企画部門、秘書などを経験しながらカルチャーショックのシャワーを浴びまくる。2度の高齢出産を経て復職し、現在家事・育児・リモートワークに奮闘する毎日。無類のコーヒー好きで趣味はハンドメイド。整理収納アドバイザー(準一級)、防災士。いつかはインタビューされる側になりたい!
セッキ―
ライタープロフィール
2014年入社、当社で初めてライターに挑戦。キャリアのスタートは銀行員、その後リクルートグループ、大手税理士法人、スポーツアパレルなど複数の事業会社で管理部門、企画部門、秘書などを経験しながらカルチャーショックのシャワーを浴びまくる。2度の高齢出産を経て復職し、現在家事・育児・リモートワークに奮闘する毎日。無類のコーヒー好きで趣味はハンドメイド。整理収納アドバイザー(準一級)、防災士。いつかはインタビューされる側になりたい!
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