ライター:セッキ―
2020.09.23
防災週間(8/30~9/5)は終わりましたが、みなさまの会社では訓練や備蓄品の見直しなど、実施しましたか?期限切れ寸前の乾パンやカップラーメンをみんなで試食したりしたのでは?^^
「オフィスの広場の記事で気づいたので、
備蓄品に消毒剤をプラスしました!」
・・・そんな声が聞こえたら嬉しい限りです♪♪
さて皆さん、
●オフィスに出社している社員、在宅ワーク社員の割合、把握していますか?
●リモート会議のセットアップ、役員の皆様は、自分ひとりでできますか?
●いま会社にある備蓄品、いつ準備したものでしょう?感染症を意識したものはある?
どうでしょうか。
これまでしっかり対策していたつもりでも、今年に入ってWithコロナになってから見直さなくてはならないことが沢山ありそうですね。今回は、
プリンシプルBCP研究所/所長の林田朋之さんに、今後起こりうる「複合災害」についての対策・見直しポイントなどを伺いました!!
防災訓練ではなく、BCP訓練を
―最近では”BCP訓練”を支援してほしいというご相談が多いそうですね。
はい、最近ではいちからBCPを整備してほしいという依頼はあまりなく、すでに対策はしていて不足している部分をサポートしてほしいとか、BCP訓練の支援のご依頼が多くなっています。
防災訓練ではなく、BCP訓練。これは結局のところ対策本部訓練なんですね。いろんなやり方がありますが、「対策本部室」を仮に作って、その中をいくつかグループ分けします。安否確認をするグループ、被災の情報を収集するグループ、インフラの情報収集をするグループといった具合です。
本部の仕事は9割が情報収集です。その情報を整理して経営陣へ報告する、という流れをシミュレーションする訓練です。多くの人は災害発生時、パニックに陥りどうしていいかわからなくなるものです。正常性バイアスがかかる人もいる。それでも、最初の一つ目のアクションを決めてあげると、スムーズに動けるようになるんです。なるべく現実にありそうなシーンをシミュレーションするのが訓練のポイントです。
※「正常性バイアス」とは、災害などヒトが静的パニックの状態に陥った際、精神的な平衡状態を保ちたいために、直面している脅威を過小評価し、また周囲にその過小評価した内容を声に出して従わせることで、自分自身を正常に保つよう「バイアス」を掛ける行動
少し段階が進むと、本社と地方の支社がある企業で、例えば「南海トラフ地震が発生し、名古屋支社が被災」というシナリオを設定します。たまたまインターネットがつながる状況だと仮定してWEB会議を開き、状況の確認や、何か困っていることはないか、というコミュニケーションのやり方などを訓練することもあります。
また、講習の際に重要なポイントとなるグループワークは、4~6名くらいで行います。役割ごとにディスカッションし、ホワイトボードに書き出していきます。この書き出すという行為で内容が記憶に残っていき、非常時の自信につながるわけですね。
また、皆さん一生懸命書いていくのですが、その書いてる内容よりも、実は「更新日時が書かれているかどうか」、という点が重要だったりするわけです。今の情報がどの程度新しいものなのか、いつのものなのかという視点は非常時でとても重要です。
自然災害にコロナ禍で「複合災害」
これまでの対策の見直しが必要
ダイヤモンド・オンラインの調査によれば、下記図のとおり、BCPを策定済み・策定中という企業が約75%でした。しかもそのうちの72%は、策定した・検討し始めたタイミングがbeforeコロナであるとのこと。数多くの震災が日本を襲ったこの9年余りですから、意識が高まっていたと想像できます。
でも、そのままでいいのでしょうか?今や大震災の可能性に加え、毎年大きな被害をもたらす台風や集中豪雨、一つの災害とも呼ばれるくらいの酷暑の夏。そして収束の見えないコロナ禍。
その対策マニュアルの見直しについて、さらに深掘りしていきましょう。
ダイヤモンド・オンライン実施「BCP(事業継続計画)に関する調査」より
(調査期間:2020年5月14日~5月28日。調査対象:ダイヤモンド・オンライン会員で、経営者・役員、主に経営企画や総務・人事部などに所属する部長職以上の役職者。回答者294人)
―いつ起こるかわからない大地震や毎年やってくる台風などの風水害だけでも対策が大変な中に、コロナなどの感染症対策も講じる必要がありますよね。また、オフィスの出社率は低下していますので、備蓄品の考え方はだいぶ変わるかと思います。対策の見直しはどのようにしたらいいでしょうか。
はい、ダブルパンチ、トリプルパンチで被災したら、と考えるとこれまでの対策マニュアルは機能しないと考えたほうがいいでしょう。下記に示す私の「複合災害対策マニュアル」では6つのポイントを挙げています。こちらを参考にぜひ見直しをしてみていただきたいです。
(1)帰宅者、帰宅困難者への対応
社員が帰宅をする場合は、途中コンビニに寄る、トイレを借りるなど、人に接触すること想定し、アルコール除菌シートを渡す。また長時間歩くことに備え予備マスクを渡すなどの対応も必要。また帰宅困難者には、寝袋を用意する企業が増えていますが、三密にならないような就寝用のレイアウトや、追加のスペースの検討も必要な場合があるでしょう。
(2)対策本部会議の実施方法(リモート会議の運営)
会社の電気がダウンし、インターネットはスマホだけしか利用できない、という条件でも複数の人がホストとしてリモート会議を立ち上げられるように訓練しておきましょう。お互いに作業や報告を確認できる企業内の災害ポータル(SNS機能付き)の運用も有効な手段です。
(3)従業員の安否確認内容の追加
これまでは社員自身およびその家族の安否が主でしたが、自宅がオフィスとなっている社員が多くなっている今、自宅の被害状況=業務環境が事業継続可能かどうかの確認も追加することになるでしょう。
(4)災害発生時のトイレ回りの衛生管理
ビル全体でトイレが使えないことも想定し、トイレ処理剤は備蓄品として必須アイテムです。糞便からの飛沫によりノロウィルス感染が蔓延した例が過去の災害で報告されていますので、前の人の使用から10分空ける、使用後の手洗いの徹底(アルコール消毒)など、運用の周知徹底も必要でしょう。
(5)若年労働者へのメンタルケア
コロナ禍の今、世界中の18~24歳までの若年層を中心に、精神的不安やうつ症状が出ていることが知られています。アメリカでは自殺願望が昨年の3倍に増えているという研究結果も。食事や睡眠、社会とのつながりなどメンタルヘルスを維持するポイントはいくつかありますが、企業側である程度サポートしていく意識や体制を整えておくのがよいでしょう。マネジメント層はWEB会議の際にひとこと声をかけるなども効果的です。
(6)危機管理事務局の作業と訓練の見直し
複合災害時には事務局の作業は従来よりも多くなるため、報告自体をリモートでできるようにするなど見直しが必要です。
実は今一番必要なのは、
ITリテラシーを高めること
―防災、BCP意識は高まっているとお感じになりますか?
実際高まらざるを得ない状況ではあるでしょうが、冷めた言い方をすると日本人はのど元過ぎれば、、、というところがありますよね。コロナ対策に関しては、BCPということができている企業はほとんどないですね。危機管理として、マスクや消毒剤の在庫を気にしたりテレワークを推進したりと、目の前のやりやすいことをやっているという印象であまりシステマチックではないように思います。
テレワークはできる企業とできない企業があるわけで、福祉施設などの労働集約型の業態は事業継続できなくなる、あるいはクラスターが発生しやすい業態なわけですから、もっと意識を高めて対策をする必要があるはずです。
―在宅ワークをしていると、今まで部下や後輩に頼っていたITまわりのことを自分でやらなきゃいけなくなり、ITリテラシーが高くなってきたという声を聞いたことがあります。BCPの観点でもITリテラシーは重要ですよね。
おっしゃる通りですね。私も常々思っていますが、ITリテラシーを上げていくことは今後本当に必要だと思います。日本は非常に遅れているにもかかわらず、業績が悪くないという現状から、リテラシーを高めようという動きにならないんですね。
私の持論ですが、特殊技能を持っていることで、会社の中である種尊敬のまなざしを受けている“情シス”の方々が、属人的な業務にとどまらせるのでなく、全社員にその知識を展開していれば、もっと日本人のITリテラシーは上がっていたのではないかと思っているんです。
BCPの観点ですと例えばテレワークの推進。私の知人と情報交換しますとね、大手のIT企業の場合は今後もずっと継続していくというスタンスなのですが、緊急事態宣言が解かれた途端に通常出勤に戻している企業がありますよね。ITリテラシーが高ければ本当は継続できるはずなのに、と思うんです。
ITまわりのことが充実している企業こそがいま成功している企業だというのは確実に言えることだと思います。ロボットやAIなどもどんどん活用していかなくてはいけない時代に来ています。ITリテラシーの低かった企業がそこに気付けるかが、その企業の存続に影響するのではないかと思っています。
会社のBCP意識が低い場合の対処法
―「会社でコロナ感染対策をやってくれない」という声をたまに聞きます。自社の経営陣がなかなか防災対策やBCP構築に関して腰が重い、という場合はどうしたらよいでしょうか。
役員・経営陣が正常性バイアスにかかっている、つまり状況を過小評価していることが問題なんですよね。そういう場合は別のアプローチで、「最初の一歩を踏み出させる」ようにしましょう。
例えば地震のセミナーのときに言っていることですが、
「5分後に震度6強の地震が起きます。まずやることは、“デスクの下にもぐること”。これはなぜか。日本の建築基準法は“横”の壁に関しては決まりがあるが、“縦”の天井にはない。よってリスクは天井にある。」
こういうことを言うと、まず初めに何をするか、が明確になります。一つできると彼らは「次に何ができるか」を冷静に考えられるようになるんです。一つ目ができると二つ目に進みやすい。これは災害心理学的に立証されていることです。
経営陣が失見当や正常性バイアスにかかってるという疑いがある場合は、「NewNormalに関するステートメント」を出してもらうというのも手です。ご自身の頭で考えて言葉にする作業をすることで、理解が進み、行動を起こせるようになります。
―なるほど。本日は、ありがとうございました!
* * * * * *
いかがでしたか。
筆者も防災週間の間に、備蓄品と食料と揃えました。地球の環境が年々、いえ日々、変わっているので私たちの備えも頻繁にアップデートしなくてはならないのだ、と気付かされましたね。
ところで、筆者が普段から行動で心がけていることで皆さんにもぜひ真似をしていただきたいことを紹介します!
トイレには我慢せず、行けるときに行っておく!
(特に電車に乗る前は必ず!)
ぜひ今日から、トイレ習慣についても見直ししてみてください!!(笑)
お話を伺った方のプロフィール | 代表 林田朋之(はやしだ・ともゆき) BCPコンサルティング研究所 https://www.principle-bcp.com/ 北海道大学大学院修了後、富士通株式を経て、米シスコシステムズ入社。 独立コンサルタントとして、大企業、中堅企業の IT、情報セキュリティ、危機管理、震災および自然災害、新型インフルエンザ等の BCP、危機管理などのコンサルティング業務を実施。BCP 講師としてNHK ニュース等に出演。 現在、プリンシプル BCP 研究所所長として、企業の危機管理、BCP、情報セキュリティ、AI システムおよび IT システム等のコンサルティング業務、セミナー講演および研修講演に従事。2018年、医薬品の相談員となる国家資格「登録販売者」試験に合格し、ヘルステック IT/AI 分野でも活動中。 【著作】 ・ATMプロトコル徹底解説(日経BP社) ・ギガビット・イーサネット徹底解説(日経BP社) ・マルチメディアATMの展望(日経BP社)等多数 |
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ライタープロフィール
整理収納アドバイザー(準一級)、防災士。2014年入社、当社で初めてライターに挑戦。キャリアのスタートは銀行員、その後リクルートグループ、大手税理士法人、スポーツアパレルなど複数の事業会社で管理部門、企画部門、秘書などを経験しながらカルチャーショックのシャワーを浴びまくる。2度の高齢出産を経て復職し、現在家事・育児・リモートワークに奮闘する毎日。無類のコーヒー好きで趣味はハンドメイド。いつかはインタビューされる側になりたい!
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整理収納アドバイザー(準一級)、防災士。2014年入社、当社で初めてライターに挑戦。キャリアのスタートは銀行員、その後リクルートグループ、大手税理士法人、スポーツアパレルなど複数の事業会社で管理部門、企画部門、秘書などを経験しながらカルチャーショックのシャワーを浴びまくる。2度の高齢出産を経て復職し、現在家事・育児・リモートワークに奮闘する毎日。無類のコーヒー好きで趣味はハンドメイド。いつかはインタビューされる側になりたい!
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