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ライター:セッキ―

2026.05.29

半数が赤字の介護業界で「利益率10倍」と「エンゲージメント日本一」を勝ち取ったHTCの理念経営

アナタの会社の社員は、自社の理念をすらすらと言えますか?
そしてその意味を深く理解できている社員がどのくらいいるでしょうか?
ドキッとした方もいるのではないでしょうか。

主に札幌市内でデイサービス『我が家』や訪問看護ステーションなど12の事業所を展開するHTC株式会社は、離職率7.2%(業界平均の約半分)を誇り、約2,300社が導入する従業員サーベイで「従業員エンゲージメント日本一」に輝きました。

さらに、半数が赤字と言われる介護業界において、全国平均の10倍となる利益率30%を達成しています。 多拠点展開をしながら、なぜ全事業所でブレずに「高い定着率」と「圧倒的な利益」を両立できるのか。

今回は、元経営コンサルタントである代表の臼井宏太郎氏にお話を伺いました!どの業態にも通ずる極めて重要な「理念経営」のお話です。特に社員が複数拠点に散らばる業態であれば、参考になるヒントをたくさん見つけていただけると思います!

関わる全員が不幸だった「修羅場」から生まれた理念

――臼井社長はホテルマンから経営コンサルタントを経て起業されたのですよね。

臼井氏
(以下、敬称略):はい、1996年 外資系ホテルの飲食マネジメントを5年経験したのち、上場コンサルティング会社にて人材育成や組織作りに従事し5年、2007年にコンサルタントとして独立しました。そしてその2年後の2009年、HTC株式会社を創業しました。毎年のように新規拠点を開所し、現在では12の事業所、従業員は約120名となっています。

――毎年とはすごいですね。どのような原体験から現在の「理念経営」のベースができあがったのでしょうか。

臼井
: 理念経営の重要性に気づいたのは、コンサルタント時代なんです。世界的なベストセラー『ビジョナリー・カンパニー』の中で、100年以上も世界的にインパクトを与え続けている大企業には共通する点がある、と書かれています。カリスマ経営者がいるうちは当然と思われがちですが、その経営者が去ったあとも永続的に発展し続ける企業には、「理念を維持し続ける仕組み」がある。これが極めて重要なのです。

飲食のフランチャイズなども、ワンマン社長で目が行き届くのは3店舗ほどが限界。5店舗、10店舗と増えるとマネジメントが破綻していくのが通例です。また、給与や条件面で集まった人は条件で離れていきますが、理念に共感した人は嵐のような状況になっても歯を食いしばってついてきてくれるでしょう。

コンサルティングを始める際には、必ず「マネジメント診断」をします。数枚のアンケートを実施するのですが、問題のある会社は、店長クラスすら自社の理念や目標を書けません。自分の会社の理念も目標も知らずに、それを達成できるわけがないんです。これが私の経営思想の根底にあります。

――そのコンサルタント時代に、初めて介護業界の現場に触れたそうですね。

臼井
: はい。34歳で独立して最初に担当したクライアントが北海道の介護事業者で、そこで初めて見た現場の惨状に、愕然としました。 あまりにも閉鎖的で、経営者は従業員の文句を言い、スタッフは会社の悪口や陰口を言い合うようなギスギスした人間関係。当然、利用者さんも楽しそうではなく、稼働率が下がって赤字になり、ついには給与の支払いや取引業者への支払いが滞るようになりました。

ゴールデンウィーク直前のことです。「4月の給与が振り込まれていない。家族を旅行に連れていきたいので、3万円だけでいいから今すぐ振り込んでほしい」と懇願する社員がいました。 またあるいは、雪の降る寒い日、クライアントの本社玄関前でずっと立って待っている男性の姿がありました。「社長はいつ来ますか?」彼は東京の印刷会社の担当者で、「会社から『代金を回収し、そのお金で帰りの飛行機のチケットを買って帰りなさい』と言われている。回収しないと東京に帰れないんです」と。

この光景を見たとき、利用者も、スタッフも、その家族も、取引先も、ここに関わる全員が不幸になっていると感じました。コンサルタントの立場でかなりアドバイスもしましたが、結局、経営者自身が変わろうとしないと何も変わらないんですよね。

ならば、私が会社を作ろう、と。「関わるすべての人が笑顔になって幸せになれる会社を作りたい」という現在の理念が生まれました。

創業からずっと。全員が打席に立つ「理念プレゼン」

――よく朝礼で唱和する、など聞きますが、拠点それぞれで働くスタッフたちに、どのように理念を浸透していかれるのでしょうか。

臼井
: 最初から理念や目標を意識しているスタッフなんて、業界問わずなかなかいませんよね。だからこそ仕組みで繰り返し繰り返し伝えていくことが必要です。

私の魂のこもった理念を話したうえで、共感してくれた人を採用しているのはもちろんのこと、3ヶ月の試用期間後には、私が半日かけて直接「理念研修」を行います。初めの頃はポカンとしている社員もいますが、ただ聴くだけでなくアウトプットすることがさらなる理解を進めます。

●内容:理念や目指す目標についてプレゼンする・形式は問わない
●対象:正社員からパートスタッフまで・全員がローテーションで
●頻度:毎月

これが当社で創業から欠かさず毎月行っている理念プレゼンテーションです。人前で説明するには、本当の意味で自分が理解していなければ不可能ですよね。自分の番がくるとなれば1ヶ月前から必死に準備し、各自でロープレなど本番に向けてしっかりと準備を重ねます。

以前ベテランスタッフのプレゼンでは、理念を家の形の工作で表現し、参加者にクイズを出したりしながら、全員が楽しく参加できるプレゼンをしてくれました。

▼スタッフのプレゼンテーション動画から(発表者は当時はパートでしたが、現在は社員として活躍しています)

――すごくみなさん楽しそうに取り組まれていますね。インプットとアウトプットの繰り返しで徹底的に定着を図るのですね。 なぜ、そこまで徹底して理念の言語化を求めるのでしょうか。

臼井
: 介護は、入浴介助や送迎など、管理者の目が届かない状況で行われる仕事です。拠点が分かれていればなおさらです。だからこそ、現場で迷ったときの判断基準として「理念」が必要になります。

何も考えずに目の前の仕事を「作業」としてこなすような介護者と、スタッフ一人ひとりが「この行動は“すべての人を幸せにする”か?」と目的意識を持ちながら向き合う介護者では、サービスの質に雲泥の差が出るのは明白です。

――お飾りの理念ではなく、スタッフ一人ひとりの心と身体に染み込んでいるのですね。それが体現されたと感じる、印象的なエピソードはありますか?

臼井
: 2024年に入社した、入浴介助専門の女性スタッフの取り組みが本当に嬉しかったですね。

介護の現場では、身体機能や体力の低下から、入浴に対して恐怖や、強い拒否感を示される利用者様が少なくありません。彼女が入社後、すぐ提出した企画書には「利用者様が少しでも楽しくお風呂に入れるように」と、ヒノキ湯やゆず湯といった季節のイベントを盛り込んだ入浴の提案が書かれていました。

それだけでなく、その利用者の若い頃の思い出によりそう形で、富士山のポスターや京都のポスターを脱衣所に貼ったんです。

すると、あれほどお風呂を嫌がっていた利用者は笑顔で入浴するようになりました。スタッフ自身にとって最大の喜びであり、その笑顔を見たご家族も幸せになり、まさに「幸せの連鎖」が起きています。


「手遅れ」になる前の備えに。サーベイ導入の目的は

――素晴らしい好循環ですが、組織が大きくなるにつれて、すべてが順風満帆とはいかない時期もあったのでしょうか。

臼井
: もちろんありました。特に、1年で複数の拠点を開設し組織が急拡大していった時期には、なかなか密な個人面談ができない状況がありました。毎週のように組織のトラブルや退職希望者がいるという報告が上がり、急な面談や対応に追われていました。

名著『7つの習慣』のなかに「緊急性と重要性のマトリックス」というものがあります。

例えばスタッフが「辞めたい」と言ってきた時は【第1領域】。すでに本人は決断していることが多く、ここから説得するのは非常に難しいんです。

ですから私は、緊急性が低く重要度の高い【第2領域】にフォーカスし、前もってトラブルを防ぐ流れを作りました。まだ本人の中でも悩んでいる段階、話を聞くことで解決の糸口を探せるタイミングですね。その「面談の優先順位をつけるためのレーダー(可視化ツール)」として、ラフールサーベイを取り入れたのです。

――数あるツールのなかで、ラフールサーベイを選んだ決め手は何ですか?

臼井
:ショートサーベイがあったことが大きな決め手でした。スマホで数分、毎月簡単に回答できるのがスタッフの負担にならず、かつ高頻度で状態をチェックできます。 介護現場では、昨日まで元気に働いていた人が、腰痛などをきっかけに突然モチベーションを落とすといった変化が日常茶飯事ですから。質問内容も当社に合っていて、費用感も手ごろでした。

これで毎月、メンタル・フィジカル・エンゲージメントを点数化し、時系列で変化を追えるようにしました。健康診断のように年1回の実施では手遅れになってしまいますからね。

最初は抵抗を示すスタッフも一部いましたが、ここでも理念に立ち戻ります。「これは監視のためではなく、本気でみんなの幸せを実現するためのツールなんだ」と。その結果、現在は「回収率100%」という、ラフール社も衝撃を受けるほどの協力体制ができています。


業界平均の10倍の利益率と、有言実行した「日本一」

――恐る恐る蓋を開けてみた、初回のサーベイ結果はいかがでしたか?

臼井
: 思っていたよりもずっと良かったんです(笑)。初回レポートの時点で、全産業平均を大きく上回る総合偏差値57。なかでも組織との関係(エンゲージメント)に関しては偏差値59で、上位18.41%に入っていました。

介護業界の他社との比較データも見せてもらいましたが、同じ従業員規模の他社が偏差値40台というなか、当社は「経営層からの情報は信頼できる」「会社の理念・ビジョンに満足している」という肯定的意見が9割を超えていました。

さらに、管理者以上のエンゲージメント偏差値が「72」というトップクラスの異常値で、「経営層と幹部が完全に一枚岩になって事業を推進できている」ことがデータで証明されたのです。今までやってきた「理念経営」が間違っていなかったんだと、胸が熱くなりました。

この結果を見たラフール社の社長と取締役が驚いて、「我が家さんは一体現場で何をやっているんですか!?」とわざわざ東京から北海道まで聞きに来られたほどです。

――そしてそれ以降も改善を続けてこられた結果、毎年ラフールさんで開催される「Well-being Workers Awards2025」で、「従業員エンゲージメント部門 最優秀賞(日本一)」を受賞されたのですね!

臼井:はい、ありがとうございます。2,300社以上の導入企業のなかから、最高峰です。 実は2019年の10周年のときに「介護業界で日本一やりがいを感じる会社を作ろう」という目標を掲げ、全社員へ手紙を送っていたんです。

エンゲージメントってつまりは仕事のやりがいなんですよね。「幸せな従業員こそが、お客様を幸せにする」、この好循環が単なる抽象的なキレイ事ではなく、最優秀賞という結果として証明できたことはこの上ない幸せです。

現在、日本全国のデイサービスの約43%が赤字と言われ、介護事業所全般の平均利益率は2.4%程度です。しかし当社は、創業以来すべての事業所が右肩上がりで「全店黒字」を継続し、各サービスの平均利益率は「約30%」と、全国平均の約10倍の利益を出しています。毎年実施している顧客満足度アンケートでも、100点満点中95点以上という高い評価をいただいています。

圧倒的な業績と顧客満足度、そして日本一のエンゲージメントという目に見える数字として証明されたのだと思っています。


介護業界の“大谷翔平”になり、世界の希望の光へ

――これだけの仕組みと実績を作られたHTCですが、臼井社長が描く「次なる目標」や展望を教えてください。

臼井
: 17年間、目の前の現場とスタッフのために全力疾走してきて、おかげさまで日本一の称号をいただくことができました。しかし裏を返すと「『我が家に関わる人』しか幸せにできていないな」と気づいたんです。

そこで、これからはこの理念経営のノウハウをオープンにし、世の中の介護職員が主体性を持って、生き生きと働ける環境を広げていきたい。スタッフも利用者もその家族もみなさんが笑顔になれるように、ということで最近は外部向けのセミナーやメディアへの露出を積極的に行っています。

私ね、大谷翔平選手の大ファンなんですよ(笑)。彼が活躍をすると、日本だけでなく世界中が明るくなり、元気がもらえますよね。「介護業界の大谷翔平」のような存在になりたい、と常々社員の前でも言っています。

3Kと言われ、半分が赤字というネガティブな話ばかりが先行するこの介護業界で、「こんなに素晴らしいトップが取れるんだ」「業界平均の10倍の利益を出せるんだ」という圧倒的な実例を示すパイオニアになりたい。

この業界を、子供たちが「将来働いてみたい」と憧れるような職種に変えるための、革命であり、希望の光に私たちがなっていきたい。その挑戦を、これからも全員で続けていきます。

――ありがとうございました。

■ 編集後記(まとめ)

HTC社の驚異的な実績の裏には、精神論ではない「仕組みとしての理念経営」がありました。個人的には次の3点はどの企業にも共通する強力なヒントになると思っています!

●理念プレゼン:アウトプットに重点を置いた浸透する仕組み
●第2領域で「備え」: 毎月の簡単サーベイで、小さな不満を早めにキャッチ
●従業員ファースト: 現場の自己犠牲を否定し、満足と利益をロジックで両立させる。

「ある程度規模が大きくなれば一定数の不満は出るのが自然」「拠点が多く離れているからしかたない」そんな諦めはまだ早いかもしれませんよ。同社の軌跡は、マネジメントに悩むすべてのリーダーの未来を照らす、まさに「希望の光」です。冒頭の質問にドキッとした方、ぜひ近い将来、理念や目標について改めて考えてみませんか。

プロフィール臼井 宏太郎(うすい・こうたろう)

1973年2月生まれ。大分県出身。 1996年 外資系ホテルの飲食マネジメントを5年経験したのち、上場コンサルティング会社で組織作りや人材育成などに従事。2007年独立し、最初のクライアントであった介護業界の現実に衝撃を受ける。関わる全ての人が幸せになる会社を作りたい、と2009年HTC合同会社設立(2018年7月HTC株式会社へ組織変更)。

札幌市内を中心にデイサービス「我が家」を展開。2026年5月現在、通所型デイサービス9店舗、看護小規模多機能施設・訪問看護・居宅1店舗。創業から理念経営を貫き、日本一やりがいのある会社を目指すことを掲げ、「Well-Being Workers® Awards 2025」において従業員エンゲージメント部門 最優秀賞を受賞。

◆HTC株式会社  https://www.htc-wgy.co.jp/

所在地:北海道札幌市中央区北2条西3丁目1番地12  敷島ビル7階
代表取締役: 臼井 宏太郎
事業内容 : デイサービス、看護小規模多機能型居宅介護、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所
セッキ―

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ライタープロフィール

2014年入社、当社で初めてライターに挑戦。キャリアのスタートは銀行員、その後リクルートグループ、大手税理士法人、スポーツアパレルなど複数の事業会社で管理部門、企画部門、秘書などを経験しながらカルチャーショックのシャワーを浴びまくる。2度の高齢出産を経て復職し、現在家事・育児・リモートワークに奮闘する毎日。無類のコーヒー好きで趣味はハンドメイド。整理収納アドバイザー(準一級)、防災士。いつかはインタビューされる側になりたい!

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