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気になるノウハウ!

ライター:一色先生

2025.09.29

教えて!一色先生「セレンディピティを促進するオフィス事例」

こんにちは、一色です。

オフィスは、組織の創造性を高めて世の中を変革するイノベーションを起こし続けるためのとても重要な場です。 創造性を高めるためには、セレンディピティを促進することが欠かせません。

セレンディピティとは、予期せぬ出会いや偶然の発見がもたらす幸運のことです。
多様な知のぶつかり合いから新しい気づきが生まれます。

セレンディピティを活性化するためには、ビジネスにおける多様性が学び合うフェーズ(多様性4.0*)に届いている組織となっている必要があります。

*参照(抜粋):多様性1.0=基本的人権と公正性のフェーズ、多様性2.0=部分的な直接的なメリットのフェーズ、多様性3.0=全体的な適材適所のフェーズ、多様性4.0=学び合うフェーズ。(『創造する組織』永井翔吾著/BOW BOOKSより)

今回は多様性が“学び合うフェーズ”に届いている前提で、2014年以降の日経ニューオフィス賞推進賞受賞オフィスから、セレンディピティの促進にフォーカスした設計と運営の実践例をご紹介します。

1.キユーピー仙川キユーポート(受賞:2014年)

オフィスコンセプト「その会話から生まれる 未来とつながる」
ひとことでいうと“会話をきっかけに未来をつくるオフィス”

●要旨
:オフィスを「体験価値の場」として設計し、社内横断イベントや文化的プログラムを運営する仕組み(専任の運営部門=キユーポート部)を持つことで、偶発的な交流を目的としています。物理的には研究者とオフィスワーカーの交流を促進する空間ゾーニング、来客や社員が交流するラウンジ、回遊を促す動線など“出会いの場”を前提にしたレイアウトとなっています。

●セレンディピティの工夫:設計(交流接点を増大させる体験重視の空間)+運営(イベント・仕掛け)が一体となっているため、異なる背景の人が偶然出会い、会話/学びにつながる確率が高まります。

画像引用元

2.ベルシステム24コミュニケーションベース(ベルシステム24本社)(受賞:2022年)

オフィスコンセプト「Serendipity Creates Innovation」

●要旨
:オフィスの中央を貫く幅広いプロムナード(通路)を設け、そこを通ることで自然に人と出会い、立ち止まり会話が生まれる動線計画。また本社・全国拠点をつなぐ大型スクリーンやショールーム(EGG)を公開し、社内外の人が情報に触れて対話する“場“を創出。フリーアドレスと組み合わせることで、席の固定化を防ぎ偶然の接点を増やしています。

●セレンディピティの工夫:物理的に「人が交わる動線」を中心に据え、視覚的/情報的な接点(大画面、ショールーム)を用意することで、意図しないインプットと会話を誘発しています。設計思想全体が“偶然を起点にイノベーションをつくる”と明確に掲げているのが特徴です。

画像引用元

3.三井物産本社(受賞:2021年)

オフィスコンセプト「知的化学反応を起こすオフィス」

●要旨
:オフィスフロア内に「内階段」や階段での移動を促す動線、社外の来訪者も利用できるラウンジや(社内外が混ざる交流スペース)を設けることで、意図的に”接触確率“を高めています。ワークプレイス運営の専任組織(Work-X質)を設け、場の使い方を運営面でも強化している点が特徴的です。

●セレンディピティの工夫:階段や混在ラウンジといった物理要素は“非計画的接触”を自然につくっています。さらに運営組織が場の利用ルールやイベントをデザインすることで、出会いを偶発的から持続的な学びに高めるようになっています。

画像引用元

4.三井物産都市開発(受賞:2023年)

オフィスコンセプト「ごちゃまぜコミュニケーションオフィス」

●要旨
:オフィスの約1/3を外部の人と交流できるラウンジにして、社外の来訪者の人出を許容するゾーニングで“外部知”を取り込む設計となっています。「社外の人」×「社内の人」の掛け合わせで予期しない知の化学反応を狙っています。

●セレンディピティの工夫:社内のいつもの同じ人とばかり会う慣性を破るために、物理的に外部との混在を起こすことが有効にはたらいている。運営ルールやセキュリティ設計と両輪で運営する点が成功要因となっています。

画像引用元

5.住友化学「Innovation Center MEGURU」(受賞:2025年)

●要旨
:研究開発の場においても吹抜け・中間階や実験室と執務空間の隣接配置などで“異能接続”を設計し、研究者・技術者間の偶発的会話を増やす空間づくりが高評価を得ています。

●セレンディピティの工夫:研究と実務の境界を曖昧にすることで、異分野間の質問や短い相談が自然発生し、新しい技術アイデアにつながりやすくなっています。

画像引用元  

■事例に共通する「セレンディピティを高める設計要素」

1.人が交差する動線(広めのプロムナード/内階段/吹き抜け/回遊動線)
—通りすがりの会話を生む。
2.社外との混ざりあい(ラウンジ、ショールーム、見学動線)
— 外部の知見を取り込む。
3.話題のきっかけになる仕掛け(大型スクリーン、展示、イベントボード)
— 共通話題を作り、立ち止まらせる。
4.フリーアドレス+席流動を設計
— 固定席の閉塞感を無くし、偶発的接触を増やす。
5.空間運営(People+Program)を組織化する(専任の運営チーム、Work-X室、オフィス・イベント企画)
— ただ“出会える場”を作るだけでなく、出会いが学びに変わる仕掛けまで担保する。
6.ゾーニングで“交流”と“集中”をコントロール
— セキュリティや業務集中エリアは確保しつつ、交流ゾーンは積極的に開放する。


■運営面(設計だけではない重要点)

•多様性の成熟(多様性4.0):設計だけでセレンディピティは起きない。異なる背景・スキルを持つ人々が「学び合う」文化になっている必要がある。各事例は運営組織やイベントを通じて“場の意味付け”を行っている点が共通。

•共通目的をベースとした偶発性:偶然は放置しても活用されない。「何を生みたいのか(研究横断?新事業?採用広報?)」を明確にして、それに合わせた動線・掲示・プログラムを設計する。

■総務担当者へのヒント

.まずは小さく試す:一フロアの一角を“社外の人も入れるラウンジ”にして利用データとイベントログを取る。
2.動線を観察:現在の通行データ(入退室ログ/オフィス内カメラの通行量解析など)を使って「交差が少ない場所」を特定し、プロムナードや内階段等で接触確率を上げる改修を計画する。
3.運営チームを設置:空間設計とイベント運営をつなぐ役割(小さくは月1人/理想は専任チーム)を社内に作る。キユーピーの「キユーポート部」や三井物産の「Work-X室」がモデルです。
4.KPIを設定:新規コラボ案件数、部署横断プロジェクト発生数、ラウンジ利用率などで成果を測る。

まとめ

日経ニューオフィス賞の近年受賞事例を見ると、空間設計(動線・混在ラウンジ・可視情報装置)と運営(専任組織・プログラム)がセットになってはじめて“セレンディピティ”は継続的な価値に変わることが分かります。

設計だけに偏らず、多様性が“学び合うフェーズ(多様性4.0)”であるかを自己診断し、足りない部分を運営(ガバナンス/イベント/評価指標)で補うことが創造性をさらに高めることになります。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

参考情報◆参考リンク

2014年度 第27回日経ニューオフィス賞
2021年度 第34回日経ニューオフィス賞
2023年度 第36回日経ニューオフィス賞
2025年度 第38回日経ニューオフィス賞
2022 ベルシステム24HP


◆参考書籍

THE BEST OF NEW OFFICE 2014(一般社団法人ニューオフィス推進協会)
THE BEST OF NEW OFFICE 2021(同上)
THE BEST OF NEW OFFICE 2022(同上)
THE BEST OF NEW OFFICE 2023(同上)
一色先生

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ライタープロフィール

コクヨに42年間オフィスデザイナーとして勤務。オフィスデザインだけでなくオフィス研究やオフィス運営維持活動も担当。オフィスやカイゼンに関する講演は全国で50回以上実施している。2019年にはデザインスタジオを開業。オフィスのコンセプトづくりやコンペ提案のアドバイスを対応。
水彩画家として個展やカルチャースクールの絵画講師、公募展への応募なども行っている。2020年には初出品した水彩画が日展入選。はやくスケッチ旅行を再開したい。

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コクヨに42年間オフィスデザイナーとして勤務。オフィスデザインだけでなくオフィス研究やオフィス運営維持活動も担当。オフィスやカイゼンに関する講演は全国で50回以上実施している。2019年にはデザインスタジオを開業。オフィスのコンセプトづくりやコンペ提案のアドバイスを対応。 水彩画家として個展やカルチャースクールの絵画講師、公募展への応募なども行っている。2020年には初出品した水彩画が日展入選。はやくスケッチ旅行を再開したい。

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