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気になるこの人!
オフィスに関わるあんな人こんな人、ご紹介します!

ライター:セッキ―

2020.05.22

朝日雅也:埼玉県立大学副学長兼高等教育開発センター長_PART2
「障害を持つ人のために、オフィスができること。」

(この記事は、PART1から続いています。)

あなたの会社に障害をお持ちの方はいますか?
車いすユーザーの方、目の不自由な方、あるいは精神障害の方。

企業が対応すべき障害者雇用。平成30年4月から法定雇用率が引き上げとなりましたが、令和3年4月までにはさらに0.1%アップします。(※民間企業の法定雇用率は2.3%に。)障害者の方々とともに働く際にはどんな点に注意が必要なのか。オフィス作りで気を付ける点はどんなことなのか。気になること、知らないことたくさんあります。

今回は、埼玉県立大学の副学長兼高等教育開発センター長の朝日雅也教授(社会福祉子ども学科)にお話を伺いました。障害者職業カウンセラーとして数々の現場で企業への就労を支援してこられた実績があり、障害者福祉、特に職業リハビリテーションを中心とした障害者の就労支援、社会福祉援助技術を専門とされています。

そして今回もまた、車いすユーザーであり、株式会社地域情報化研究所の代表を務める後藤省二氏にインタビュアーをお願いしました!同じ大学のご出身である後藤氏が、三鷹市役所の障害者福祉係としてご勤務された際に、イベントスタッフのボランティア募集をしたところ、在学中の朝日氏が応募してきたことが最初の出会いだったとのこと^^ またその後、朝日氏が身体障害者雇用促進協会(当時)へ就職される際のキューピッド役にもなられたそうです。

難しい質問から身近なオフィスに関する質問まで、当サイト編集長の佐藤およびライターの関もご一緒させていただきましたよ。
(取材:2020年2月)

※写真、左:朝日教授、右:後藤省二氏

関:ところで今、テレワークを導入している企業が増えています。それによって、なかなか通勤が難しい方にとっても、障害者雇用がしやすくなってきている側面もあるのでは?

朝日:はい、在宅雇用を含めて、テレワーク環境というのは、障害者雇用を進めていく上で、一つの重要な視点だと思っています。ただし、注意が必要なのは「インクルーシブな職場作り」という観点です。精神障害や発達障害の方の中には、あまり人と関わらないほうがやりやすい、というケースもあると思います。ですが、障害を持つ人は全部テレワーク、と決めつけないようにしてください

障害がない人にとっては、在宅勤務でも、必要に応じて直接会社に行くことができますよね。障害がない人であれば自分でコントロールしたり、必要な時に組み立てられるような要素や利便性を、障害のある人にも同様に保証していかないと、「障害者=テレワークでOK」といった単純な発想になってしまうかもしれません。

関:なるほど。では、新たなオフィス環境を整備するのは現段階ではコスト的に難しいけど、リモート環境をより良いものにする、例えばコミュニケーション手段の充実や、WEB会議の習慣化などという措置は「合理的配慮の提供」になりますか?

朝日:厚生労働省の合理的配慮指針事例集(第三版)では、肢体不自由者の項目に「その他、労働条件・職場環境等に関し、通院・体調等に配慮している例」として、「在宅勤務を認めている。(10~49人/サービス業/事務)」があげられています。この点からも、リモート環境をより良いものにすることは合理的配慮の提供になると考えられます。

ただし、その際には、合理的配慮が「障害者と障害者でない者との均等な機会や待遇の確保、障害者の能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するための必要な措置」であることに留意しなくてはなりません。

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× 単にオフィス環境の整備が難しいことを理由に、移動等に支障のある障害者は在宅勤務とする。

〇 在宅勤務をする際に、メールでのコミュニケーションがほとんどで会議は電話で実施。常に孤独感があった
→Web会議システムを導入したことで、顔が見えるコミュニケーションが可能になり、オフィスにいる社員との信頼が深まった

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いずれにせよ、事業所が一方的に配慮を行うのではなく、障害のある従業員との話し合いを通じて、合理性を協議していくことが求められます。

後藤:ICTの発達、AI導入などで大多数の仕事が将来なくなる、あるいは必要性が低下すると言われている中で、障害を持つ方々の労働環境はどのように変わるとお考えでしょうか?

朝日: 確かに、知的障害の人たちが従来関わってきた、単純反復作業は、AIの導入とICTの進展によって間違いなく減りますよね。でもそれは、必ずしも障害のある人たちだけではなく、全ての人に言えることだと思います。そうなったときに、単純反復作業以外の仕事が、障害を持つ人に合わないかというと、そんなことはなくて、例えばかつては、知的障害の人がPCを使って、パワーポイントの操作をしたり、ホームページのデザインをしたりなどというのは考えられなかった。でも一定のソフトを使ったり、段取りを整えたりすれば、できるようになります。

そういう意味では、障害者雇用は、新たな雇用環境を生み出したり、労働環境を変えていく上での、手掛かりを提供してくれているわけですよね。最初のきっかけは法定雇用率をクリアするため、でいいと思うのですが、そこだけにとらわれず、その次のステップに進めるかどうかというのが、企業でいえば、総務や人事の方の、一つの考え方なんじゃないかと思いますね。

後藤:雇用率はあくでも入り口と。

朝日:入り口、そう手段なのです。逆に厳しい面もあってね。例えば、後藤さんのような方を雇ったら、事業所にとっては全くデメリットがないですよね。「後藤さんは200%の力を発揮していただいているので、障害があるという認識は全然していませんよ」と企業は言います。それでも、雇用率にはカウントしているのが現実です。

ですので、究極的には、障害が仕事に何も影響を与えていない人は障害者雇用のカウントから外すべきだ、というのが私の思いです。でも、今のところ、障害がある労働者を、わざわざ障害者雇用率のカウントから外している企業は聞いたことがない。

後藤:精神障害の方の就労支援にも長く携わってこられた先生にお伺いします。そういった方々との周囲の向き合い方や、オフィスのあり方などについて教えていただけますか。

朝日:例えば、接客やサービス業などでは、「挨拶は元気よく、気持ちよく、笑顔で」と均一性が求められますよね。ですがそれが苦手な人もいます。お客さんからすれば、無愛想に見えてしまうので裏方の仕事へとするか、それでも前面に出すのか、結局お客さんの反応を考えて、前者になりがちです。難しい面もありますが、接客業でも、きちんとサービスが行き届けば別に無愛想でもいいじゃないか、という考え方もあると思います。その人は決してお客さんを貶めようとしているわけではなく、適切な応対を考えているとつい不愛想に見えてしまう。そういったことが受け入れられるような環境設定、周囲の理解というのは、とても重要な気がしますね。もちろん、皆さんがそろって笑顔で迎える、というのは気持ち良いですが、「ともに働く」ことを容認していく社会を作るためには、無理して均一性を求めない、ということも必要になってくるのかもしれません。

今、就労移行支援事業所などでも、社会的なスキルを身につけるために、挨拶やコミュニケーションの訓練を重視しているところも少なくありません。そもそも障害ゆえにそのような行動が難しいわけであって、そこを変えるというより、むしろ前面に打ち出してみるという視点も大事です。障害のある人が、ありのままでいられるようにすることが、実は誰もが働きやすい職場になるんじゃないかな、と思うんです。

オフィスに関しては、みんなで集まれる広々としたコミュニケーションスペースもあれば、じっくり考えたいときや気が散ってしまうときのためにパーテーションのある集中スペースもある、などの工夫はいいですよね。障害がある人が与えてくれるヒントが、実は職場全体にも活きてくるんです。

後藤:スペースのバリエーションも含めて、「許容できるオフィス」が求められるわけですね。

朝日:はい。オフィスのデザインだけでなく、社会全体での理解がとても重要になってきます。「発達障害」という言葉だけが独り歩きすると、誰もが「何かわかったような」気になる。電車の中で、独り言を繰り返したり、パニックになっている人を見ると、あの人は発達障害なんだよね、と線引きをして無関心の世界に入るのか、原因はよくわからないけど、「大丈夫か、どうしたんだ」と関心を持つかに対応が分かれてくるかと思います。後者のように、ぶつかり合いになるかもしれないが、関心を持って向き合っていくような姿勢がないと、社会は成熟していかないと思います。多くの先達者が言っている、「障害のある人が街に慣れる」だけではなくて「街が障害に慣れる」ことも必要です。

職場も同じですよね。「障害のある人が職場に慣れる」ことはとても大事ですが、「職場が“そんなもんだ”と障害に慣れる」こともまた重要です。“うちは多様性のある職場を作っているんです”という風に打ち出していけると良いですね。

関:「気になるオフィス!」の記事では100社以上のオフィスをご紹介しているのですが、最近ではABW(Activity Based Working)という考え方で作られたオフィスがあります。カウンター席やソファ席、防音が施された集中席や、畳敷きのスペースにスタンディングテーブルなど、様々な種類のスペースを一つのオフィスの中に作っているんです。そういったオフィスは、知的や精神などの障害を抱えた方にも、働きやすいと言えるのでしょうか?

朝日:働くスペースの選択肢が多いわけですから、たぶん働きやすいのでしょうね。障害を持つ方に向けた「超短時間労働」の取組みが行われています。たった1時間でも仕事の契約をするのですが、その1時間の仕事をするために、前後の準備・休憩の機会と場所を保証し、そのかわり1時間の仕事は契約どおり確実に担ってもらう。オフィスに来たら寝て、時間になったら起きて、1時間仕事をして、終わったらまた休んで帰る・・・極端かもしれませんがそういう環境設定がされているとその人は働きやすいですよね。多種多様なスペースが用意されているオフィスなら、さぼってるとか遊んでるとは思われない環境が作りやすいと思います。

関:どちらかといえば業務の効率性や社員の方の健康を考えて作られたオフィスですが、実は障害をお持ちの方にも使いやすい、となればすごく良いですよね。

朝日:ユニバーサルという観点で優れたオフィスということになりますね。

佐藤:最後に、企業の総務担当者に対して一言お願いします。

朝日:当該規模にある企業にとって障害者雇用率は、コンプライアンスの観点から、対応すべきことではありますが、それは単なる手段であって達成するのが目的ではありません。目的化してしまうと、雇用率をどうやってキープしようかという考えに終始してしまいがちです。むしろ、会社の業績を上げたり、働いている人たちの満足度を高めていったりするための手段であって、決して目的ではない、ということをぜひ強調したいですね。障害者雇用は、実はいろいろな可能性に満ちている、と。多様性を全体に広げる、チャンスに溢れていると思います。

        *       *       *

難しいテーマに触れる機会となりました。これまで触れたことのないワードもたくさん出てきました。でもまだまだ、本当に障害のある方の気持ちを理解できてはいません。

以前、ユニバーサルデザインに関する記事を書かせていただき、健常者と障害者を分けるという日本の古くからの慣習がいかに多くの問題を生み出しているかを知りました。障害を持つ方の気持ちを本当に理解していくには、同じ職場で同じ雰囲気の中で仕事し、会話し、交流をしていくことが非常に重要です。

筆者には小さい子供が二人おり、米国アニメ番組を毎日のように観ていますが、こんな気づきがありました。「ママは車いすの冒険家」や「パパはゲイ」などの設定が普通に登場するのです。日本の番組にはあまりない設定だなと思いました。幼い頃から、「身の回りにはいろんな人がいる」「どんな人とも分け隔てなく接する」という教育につながっているのだと思いました。

「難しい」などと言っていてはいけない。「障害者雇用」、そんな制度がなくても”ともに働く”、ことがごく自然にできる世の中にしなくては。そんな思いを抱かせられる貴重な取材でした。

プロフィール朝日雅也(あさひ・まさや) 
埼玉県立大学/副学長兼高等教育開発センター長 保健医療福祉学部社会福祉子ども学科教授


’81年国際基督教大学教養学部社会科学科卒業、’98年日本社会事業大学院社会福祉学研究科博士前期課程修了
’81年4月 身体障害者雇用促進協会(現 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)入職(財産法人国際身体障害者技能競技大会日本組織委員会、研究開発部研究開発課、国立職業リハビリテーションセンター、東京障害者職業センター多摩支所、国際協力課勤務)
’96年埼玉県入職(衛生部看護福祉系大学設立準備室勤務)
’99年埼玉県立大学入職(保健医療福祉学部社会福祉学科(現社会福祉子ども学科)講師。
’07年6月から教授。2009(平成21)年4月から埼玉県立大学院保健医療福祉学研究科教授兼務。現在に至る

障害者職業カウンセラーとして現場で企業への就労を支援。専門は障害者福祉、特に職業リハビリテーションを中心とした障害者の就労支援、社会福祉援助技術。
セッキ―

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ライタープロフィール

整理収納アドバイザー(準一級)、防災士。2014年入社、当社で初めてライターに挑戦。キャリアのスタートは銀行員、その後リクルートグループ、大手税理士法人、スポーツアパレルなど複数の事業会社で管理部門、企画部門、秘書などを経験しながらカルチャーショックのシャワーを浴びまくる。2度の高齢出産を経て復職し、現在家事・育児・リモートワークに奮闘する毎日。無類のコーヒー好きで趣味はハンドメイド。いつかはインタビューされる側になりたい!

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